前回もお話しましたが、七宝焼きを作るのは案外簡単で誰にでもできます。ガラス質の釉薬(ちゅうやく)という粉状の上薬を金属の上にのせて、それを乾燥させて焼成するだけ。単色でも深みのある色がたくさんありますから、きっとお気に入りの作品ができるでしょう。
1.七宝焼きの2つの技法
七宝焼きには七宝焼きの手法はいろいろありますが、おおむね2つに分けられます。一般的には銀線を立て輪郭を作って模様を作っていく伝統の有線七宝と、線を気にしないで自由に釉薬を置いて作品を作る無線七宝です。
♦有線七宝とは?
銀線のリボンを使ったり、丸い銀線を使ったり、それをよじったして使います。有線七宝をする場合は、大抵銀箔を張ります。この場合の手順としては、下焼きをします。下焼きしてから銀箔を貼り、一度焼成。焼成した後、その上に銀用の透明釉薬をのせながら銀リボンを立てていき、一度焼き、焼いた後好きな色をおいていきます。これを繰り返して完成した時点で、平面からはみ出している銀リボンは砥石で研いで、面を平らにし最後に、もう一度焼成します。
写真のループタイは今説明した要領で銀線をおき、立てた銀線の中に透明の青とグリーン。半透明のグレー。周辺は黒色で引き締めています。これは銀箔を貼っていないデザインのようですので、全体に渋い落ち着いた色合いに仕上がっています。
♦無線七宝とは?
線を立てないで自由に釉薬を置いていく手法です。これは初心者にも簡単に行えます。不透明、透明、または半透明釉薬の特徴を知って作業すると、より自分が作ろうと思った作品に近づけます。板を鍛金にしたものに関しては、単色の釉薬をのせただけでも効果が得られます。
♦七宝の釉薬
七宝焼きの釉薬については少し触れましょう。この成分は硅石、鉛丹、硝酸カリ、炭酸ソーダ、ほう砂などが含まれています。これ以外に青、紫系には酸化コバルトや二酸化マンガンなども使われています。赤系は、製造段階で金液が入っています。釉薬については透明、不透明、半透明があるわけですが、透明釉薬は下の銅版が透けるような発色をします。黄色金茶、青竹、ひわ淡などの緑系、赤紫、青紫、グレー、黒透明その他の色があります。
不透明釉薬は下の地金をすべて隠します。代表的釉薬の色は赤、桃色、黄色、赤橙 黄芝、紺青色、緑、紫、黒、白、青グレー淡、 銅水(水色)などがあります。
半透明というのは地金の気配がほのかに感じられるので、不透明釉薬より柔らかな仕上がりになります。花白、ひすい、クリーム、グレー、モーブ(藤紫)などがあります。こうしたの釉薬の性質を頭に入れて作品を作っていくことになります。
2.無線七宝のいろいろな技法
七宝焼きにはいくつか技法があります。表現力を深めようと思っている場合は、定番の技法を覚えるともっとさまざまな表現ができて七宝づくりが楽しくなります。案外簡単な操作で、複雑に見える作品が出来上がりますよ!
フリット法
YOUTUBEに作り方をわかりやすくアップしている方がいらっしゃったので貼り付けておきます。
フリットとは絵の具を、粉状にする前の釉薬のことで、これを置いていくことでカラフルな作品が簡単に作れます。写真のふくろうの七宝焼きは書割の部分もありますが、胸の辺りにたくさんのフリットがかけられています。作り方としては
①裏に裏地専門の釉薬を塗り焼成。
②単色ならばCMCというのりを少し入れた釉薬をのせ、フリットもCMCにつけて落ちないように置いていきます。色はお好みで…。よく乾かし800~850度で焼成します。全体が赤くなったら、取り出し時です。
♦マーブル七宝
マーブルとは釉薬が溶けた瞬間に引っかき棒で釉薬を動かすと、色が動いてマーブル状の模様が作れることから、マーブル七宝と呼ばれています。手順としては
- 裏に裏地専門の釉薬を塗り焼成。
- あなたが表現したいと思う釉薬をのせて、それが赤く溶け出した頃合いをねらって引っ掻き捧でかき回しましょう。
- それから、ちょっと綿が平らになるまで待って作品を取り出します。
♦書割(かきわり七宝
書割七宝というのは一度焼成した七宝焼きの上から不透明釉薬を細かくしてのせます。この不透明釉薬を引っ掻いて、下地の透明釉薬を見せることによって線が描けます。線を何色にするかあらかじめ考えておいて、下地の色を選びます。透明釉薬の金茶とか濃紺、濃青竹(深緑色)などがよく使用されます。
写真のアマゾンに掲載されているネコの七宝焼きのブローは下地に金茶を施してから、白の不透明釉薬をのせて、線の部分を出すように引っ掻いてします。猫も目の部分も引っ掻いて製作していると思われます。少し金泥を加えて装飾している部分もありますね。では、その手順を紹介しましょう。
- 裏に裏地専門の釉薬を塗り焼成。
- 表地の色を決めて、釉薬を載せて焼成。
- 不透明釉薬をすり鉢などでよく摺り、キメを細かくします。CMCが少ないと作業がしにくいので多めに入れて全体にのせます。
- よく乾かしてから、鉄筆とか先がとがったもので線を出したいところを引っ掻いて下地の透明釉薬を出します。これが線になります。
- それを焼成すると、線が完成。あとは、好きな釉薬を置いていきましょう。
♦噴釉(ふんゆう)七宝
噴釉というのは下に不透明な色を置いて一度焼成し、その上から透明釉薬を置くと不透明釉薬が下から噴出して思いがけない模様を作ってくれます。薄くさっとおくと大きな噴釉ができますし、厚塗りをすると細かい模様ができます。この加減を調節すると、いろいろ面白い効果が得られます。火が作ってくれる芸術です。
写真のループタイは黄緑の不透明釉薬をのせて焼き、その後青竹(深緑)の透明釉薬をのせて焼成したものです。温度加減で大きな模様になったり、細かい模様になったリします。作業の手順を紹介しますと、
- 裏に裏地専門の釉薬を塗り焼成。
- 表地の色は、お好みの不透明釉薬をのせ焼成。
- 透明釉薬をその上からのせます。はっきり噴釉させたい場合は薄くして、そのまま無地にしておきたい場合は厚めに塗ると噴釉がしにくくなります。
- 焼成して出来上がり。余り出し入れすると、模様が崩れますので注意が必要です。
3.七宝焼のお手入れ
七宝焼きは太陽光でも変色せず、水にぬれても強いので左程お手入れは必要ありません。柔らかい布で拭く程度のケアでいいでしょう。不織布やめがね拭きなどで拭きましょう。
ただ七宝は、衝撃に弱い特徴があります。ガラス質のものが金属面に付着しているだけですから、落とせば割れてしまいます。ですから、丁寧に扱うことが必要でしょう。
拭いても取れない汚れはやわらかいスポンジに中性洗剤を使用して下さい。スチールタワシや研磨粒子が接着しているスポンジなどは、七宝焼きの表面をキズつけますから気をつけましょう。
♦地金が銀製品の七宝のお手入れ
七宝には、地金が銀という製品もあります。銀製品は空気中に含まれる硫黄成分と反応して、表面が黒ずんできます。これがいわゆる自然のいぶし銀のような現象なのですが、銀色七宝は華やかなきれい目の色を使っているだけに、黒ずみはイメージを損ないますから、時々はお手入れをしたいものです。
♦銀の黒ずみを落とす製品
傷つけずに黒ずみを落とすものとして、液体タイプのシルバークリーナーがあります。名前は「スピーディップ」。
七宝の部分に触らないように注意しながら、やってみてください。
もう一つ、艶出しクリーム「シルバーポリッシュ」。
すぐにピカピカ!銀磨きに シルバーポリッシュ50g(燻し加工ジュエリーにおすすめです)
ツヤ出しの仕上げは、このクリームを使いましょう。使用方法は、動画をご覧ください。やさしく丁寧に行うことが大切です。
まとめ
七宝の技法、お手入れの仕方の基本が分かっていただけたでしょうか。七宝はていねいに扱っている限りは破損したりすることはありませんが、ガラス質の釉薬は衝撃に弱いデメリットもあります。
しかし、絵画でも退色したりするケースが多いなかで、永遠に退色したりせずその輝くような色とツヤを保つという七宝焼きは、やはり魅力的な素材と言えるでしょう。初心者でも簡単につくれ、また技法も奥が深いですから、その技術到達には終わりもありません。七宝焼きは着けてみて良し、作ってみて良し…そういう意味では、いろいろな楽しみ方ができる焼き物と言っていいでしょう。